坂上

初出社

1981年2月1日。

いよいよ今日は初出社の日だ。真新しいスーツ、Yシャツにネクタイ、革靴に身を包む。新潟で日テレ系列の第3番目の新局として、前年の10月にTNNテレビ新潟が設立された。しかし、設立からまだ半年足らず、新しい局舎は工事中で完成していない。繁華街のほぼ真ん中、本町(ほんちょう)通り九番町にある仮事務所に向かう。

初めての一人暮らしで部屋を借りるにあたって、新潟市内の土地勘は全くないので、不動産会社に新しい局舎と仮事務所への通勤に便利なエリアを教えてもらった。お金もないので、エレベーターの無い4階建ての雑居ビルの4階の安い部屋を借りた。確か3万円ちょっとだったように記憶している。条件は悪いのだが、このビルには喫茶店や中華料理店、さらには雀荘まであり、独り身の自分にはうってつけの場所だった。スーパーマーケットも近くにあり、独り身の自分としては充分だろう。仕事で疲れた体で4階を歩いて昇るのは結構大変だが、当時はまだ若く、登山をしていた自分にとってはそんなに苦ではなかった。今なら絶対に選ばない(笑)。

ビルの前のバス停から新潟駅前行きのバスに乗り約15分、本町のバス停で降り、5分ほど歩けば仮事務所に到着する。大手損害保険会社の新潟支店だったビルで、古くて小さいながらも正面玄関には円柱がある重厚な造りの立派な建物だ。

建物の中はごった返して賑やかだ。総務から名刺やら社員証やらを受け取り、営業部のメンバーを紹介される。本社営業部はスポットデスクを入れて総勢十数人。新局ということで、殆どの社員が中途入社の社会人経験者ばかりだ。営業部の新卒は自分とN氏の二人のみ。開局まで2か月ということもあって、社員研修などは全く無かった。いきなり営業資料や企画書を渡され、先輩社員とセールスに出かけるという、今では考えられないような状況だった。自分は社会人経験がある年上のK氏とコンビを組まされ、市内の広告代理店やスポンサーを回ることになった。社会人生活の第一歩を歩き始めた。