坂上

接待①

接待。話には聞いていたが、社会人として初めて接待というものを経験した。営業職であれば必ず通る道でもある。お客様、つまりテレビ業界で言えば、いわゆるスポンサー相手の飲食ということなる。ある意味、営業のイロハをここで学ばせてもらった。

当時の直属の上司は営業部長。その方は業界のベテランで、接待が得意の方だった。なので古町の美味しい割烹や料理店、寿司屋などをよく知っていた。当然、2軒目のバーやクラブなど、女性がいるお店もよく知っている。自分も度々同行させてもらった。

接待というものは単純な行為だ。お客様に如何に喜んで数時間を過ごして貰えるか。それが目的である。だが、その単純なことが難しい。

接待する人は殆どがスポンサーのキーマン、つまり予算を決めてくれる人だ。テレビCMを出す権限を持っている人と近しくなれば、今後の出稿も安定してくるので会社にとっても有益という訳だ。その方はどんな料理が好きなのか、お酒は何が好きか、どんな話題に興味があるのか、カラオケは得意か、ゴルフは好きかどうか等、あらゆる情報を集めてお店やスケジュールをブッキングしなければならない。当然、接待の席で自分は酔っていられない。かといって、酒を飲まずに少しも酔わなければ、つまらない奴と思われる。適度に酔わなければならないのだ。最初はその匙加減が分からなかった。ついつい1軒目で飲み過ぎて、2軒目のバーでお客様の歌も聴かずに寝込んでしまった失敗も一度や二度ではない。

基本的には酒の席が好きなので、接待は苦にはならなかった。どちらかといえば好きな方だ。当時、接待する方は殆どが社長さんか幹部の偉い方ばかりだ。年齢も相当離れているが、逆に可愛がってもらったように思う。何度か接待を経験するうちに、お店の女将さんやクラブのママさんとも顔馴染みになって、気軽に話せるようになってくる。

そうこうすると、自分一人で接待をしなければならないケースが出てきた。