坂上

接待②

スポンサーに営業に行った時に、「坂上君、今度飯にでも行こうよ」とお誘いを受けた。飯に行こうよというのは、ご飯を食べに行くわけではない。「飲みに行こうよ」ということだ。上司がいると落ち着いて飲めないが、担当者の自分なら気軽に飲めると思ったのだろう。「行きましょ、行きましょ!」ということになって、初めて自分一人で接待をすることになった。

先ずは上司に相談して許可をもらう。担当者レベルなので高級なお店には行けないが、1軒目は居酒屋の焼き鳥でいいか。でも2軒目は必ず行くよな。どこがいい?と考えを張り巡らす。クラブは予算オーバーだからスナックかな?という流れに落ち着く。

当時は携帯電話もないので、お店を予約してから事前に打ち合わせをして、どこそこのお店で何時に待ち合わせしましょうと接待相手とスケジュールを組む。当日はお客様を待たせるわけにはいかないので、遅くとも10分前にはお店についてお客様の到着を待たなければならない。支払いのお金もないので、事前に仮払いを受けて現金を用意しておくことも必要だ。ツケが利くお店も多かったが、一応現金も用意しておくと安心なのだ。

最初はお酒の席でどんな話題を話せばいいのか悩んでいたが、杞憂だった。仕事の話やプライベートの話まで、アルコールが入ればコミュニケーションはスムーズになるものだ。仕事につながるケースも度々ある。お酒の力は偉大なり。「歴史は夜動く」というのは本当だった。

お店の女将さんやママさんたちにも随分助けてもらった。上司のお店でそんなに通っているわけでもないのに、お店に入ると「坂上さん、いつもありがとうございます」と話してくれて、自分の馴染みのお店ということをお客相手に演出してくれるのだ。営業マンとして、手持ちのお店がどれだけあるかも大切なことなんだなあと学ばせてもらった。

そうやって新入社員の営業マンも、徐々に大人の世界に足を踏み入れていくことになる。