坂上

接待③

接待は夜ばかりではない。昼間の昼食時間にも大事な接待をすることがある。お酒が入らないので短時間で済むこともお互いに有り難いし、その割には濃密な時間を過ごせるのだ。

当時の上司はいわゆる美食家だったので、新潟市内の美味しいお店をよく知っていた。鰻屋の「瓢亭」、寿司の「港寿司」、へぎそばの「小嶋屋」、鉄板焼きのステーキなら「新潟東映ホテル」、中国料理ならオークラホテル新潟の「桃林」など、季節に合わせてスポンサーを誘って昼食に行った。自分も新潟の美味しいお店を知る良い機会になった。

スポンサーとそんな時間を度々過ごしていると、自然と仲も良くなって商談もスムーズに運ぶようになる。先方からもいろいろなリクエストが来て難儀することもあるが、それを受け入れていくと、こちらの無理を聞いてくれるお客様にもなってくれるのだ。give-and-takeの関係だ。そんな関係に成れれば安定したスポンサーになってくれるので、売上も安泰だ。売り上げの少ない新参者のテレビ局にとっては、それが何よりも大事なことである。

ローカル局の営業とは、そんなスポンサーをどれだけ抱えられるかが大切なのだと上司から学ばせてもらった。昭和のアナログ的なお付き合いと思われるかもしれないが、時代が変わっても人間同士のお付き合いはそんなに変わらないのではないだろうか。「これからも末永くお付き合いをお願いします」という人間関係は、営業の基本と思う。

コロナ禍でリモートでの交渉が増えているが、それだけで本当の人間関係は築けるのだろうか?自分には無理だ。やはり実際に顔を合わせて話がしたい。交際接待費に厳しい時代になっているが、飲食店は、魚や野菜、肉、お酒など、各地の特産品の消費を支える社会の基盤で、日本の経済を支えているといっても過言ではない。なくてはならない存在である。そんなお店で過ごさせてもらう時間は、何物にも代え難いものと思う。

テレビ業界の大スポンサーで、数々の名作CMを世に送り出してきたサントリーが、コロナ禍で苦しむ飲食店を応援するポスターを作っている。その中にこんなコピーがある。

「人生には、飲食店がいる」

人生には、飲食店がいる。|サントリー (suntory.co.jp)

様々なスポンサーや代理店の担当者とお酒を飲みながら話した時間。今でも「営業的には本当に有効なお金の使い方だったなあ」と改めて感じている。